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令和8年10月の建築家コラムをお届けします。
9月は長雨が続きましたが、豪雨で水害にあわれた方々に心よりお見舞い申し上げます。 さて、55回目のゲストは「渡邉 明弘(ワタナベ アキヒロ)」さんです。 渡邉さんは、首都大学東京大学院修了後、青木茂建築工房を経て2016年に渡邉明弘建築設計事務所を開業されました。 「再生をデザインする」をコンセプトに、建築の再生がスタンダードになる社会を目指して、日々活動されています。 今回、渡邉さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。 それでは渡邉さんのコラムをお楽しみください。 株式会社渡邉明弘建築設計事務所 https://www.aki-watanabe.com/
プロフィール渡邉明弘(わたなべあきひろ) 1986年 福岡県北九州市生まれ 2009年 北九州市立大学 卒業 2011年 首都大学東京(現:東京都立大学)大学院 修了 2011〜15年 青木茂建築工房 2016年〜 渡邉明弘建築設計事務所 主な作品に「REDO JIMBOCHO」「Harport Suginami Sud」など。主な受賞歴に「JIA優秀建築選」「東京建築賞」「グッドデザイン賞ベスト100」「これからの建築士賞」など。 床としての基本性能の回復と、空間の更新 建築基準法で主要構造部の一つと定められてもいるように、また、菊竹清訓は床が生活の場を表明し、空間を規定すると主張したように、床は建築物を構成する主要な要素のひとつである。しかしながら建築の再生に目を向けると、床でできることと言えば仕上げを貼り直すか、せいぜい吹き抜けを作る程度の印象が否めない。そこで本コラムでは、床の基本的性能を取り戻すことで空間構成を刷新した点に着目して、自作を振り返ってみたい。 写真 1:外観。©︎鳥村鋼一
今年竣工した「谷中 継」は、築63年の木造家屋を改修した建物である。敷地は谷中銀座に面する旗竿地で、路地を抜けると徐々にファサードが姿を表す空間体験や、四周を囲まれた空地の静かさが魅力的だった。建物は違反増築を含む大幅な改造がなされた間取りや旧耐震基準での構造計画、サッシや外壁の防耐火性能など、全体的に機能性や安全性の問題を抱えていた。そのため今回では構造体以外をほぼ全てやり替え、朽腐していた柱や梁も交換した。4号特例が廃止される直前だったため、主要構造部を徹底的に健全化することで、当分の間は修繕等による大規模な修繕・模様替えの建築確認が要らない状態を目指した。なぜなら、4号特例の廃止後は大規模な修繕・模様替えの確認申請が敬遠され、必要な改修がなされずに放置される可能性が高いと考えたからだ。こうした法的背景に加えて、使い方やテナントが未定だったことからインテリアに関して設計できることがほとんど残されていない実情もあった。このような条件から、設計の主題は、主要構造部をどのように更新するか、またそれらの操作によって空間構成や敷地との関係をいかに向上させるかという2点になった。
写真 2:2階内観。床面のフレキシブルボードはかつての空間を暗示するように従前の畳割を踏襲した。 ©︎鳥村鋼一
まず、傾斜していた2階の床を全て撤去して24ミリの構造用合板で張り直し、床の基本的要件である水平性や安心感を取り戻すことから始めた。次に一部の床レベルをずらすことで、独立した場所を作るとともに様々な視線や光の抜けをもたらした。建物の防火性能や耐震性能を確保するために外壁も全て撤去・新設したのだが、耐力要素がなるべく屋内に出てこないよう外壁で耐力壁の数量を確保しながら、内外の関係を考慮して開口の位置をリロケートしている。違反増築だった屋外階段と屋内に隠蔽されていた既存階段は撤去し、寸法やレイアウトを一新して鉄骨階段を掛け直した。機能性や適法性を確保することから始まった床と壁や階段の操作によって、小さな木造家屋とは思えない広がりとヒューマンスケールがもたらす安心感が同居する空間、新設/補強した柱や梁の合間を立体的に縫うようなリズム感のある空間に生まれ変わった。
写真 3:1階内観。 ©︎鳥村鋼一
写真 4:エントランス。 ©︎鳥村鋼一
1階は木軸の床を全て撤去し、既存の基礎を一体化するようにスラブを新設した。敷地内には大きな飛び石のように土間コンを並べ、商店街から建物内まで続くアプローチを形成した。谷中らしい路地を抜けるような感覚と、賑やかな商店街とは対照的に静かな空地が生まれた。嬉しい誤算は、竣工後にオープンしたかき氷店が、ほとんど引き渡しの状態で、家具を入れただけで使ってくれていることだ。小上がり部分のちょっとした特等席や、外構のテラス席を一つずつ体験していくのが、ささやかな楽しみになっている。
写真 5(左):既存写真。未申請の屋外階段により上下階が分割されていた。2階右側が既存情報にない違反増築のヴォリューム。
写真 6(右):施工中の状況。外壁や床の解体を進めている所。 渡邉さん、ありがとうございました。 築63年の木造住宅の改修は大変なプロジェクトであったと推察しますが、「建物の再生」を丹念にデザインされていることが、分かりやすく伝わってまいりました。 その土地や建物が潜在的に持つ価値を丁寧に読み解きながら、既存建築を再構築していくためには、建築に関する深い知識と感性が求められるものと感じます。 このように再生される建築が世の中に増えていき、ますますご活躍されることを心よりお祈り申し上げます。 |
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