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建築家コラム 第40回ゲスト 「大島 碧」 2024年4月1日 一覧へ戻る
皆さんこんにちは。

令和6年4月の建築家コラムをお届けします。
桜の開花のお知らせも届くようになり、春の日差しが感じられるようになってきました。

さて、建築家コラム40回目のゲストは「大島 碧(おおしま みどり)」さんです。

大島さんは、東京藝術大学美術研究科建築専攻修士課程卒業後、隈研吾建築都市設計事務所に3年間勤務され、その後2020年に東京大学で工学博士学位を取得されています。
2018年には小松大祐さんと風景研究所を共同設立され、現在は横浜を拠点に活動されている建築家です。

今回、大島さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。
それでは大島さんのコラムをお楽しみください。
 ■建築家コラム 第40回ゲスト 「大島 碧」 拡大写真 

大島碧

1987 神奈川県に生まれる
2010 東京藝術大学美術学部 建築科卒業
2012-2013 ミラノ工科大学 建築社会学科
2014 東京藝術大学美術研究科建築専攻 修士課程卒業
2014-2016 (株)隈研吾建築都市設計事務所
2016 東京大学工学系研究科 建築学専攻
川添研究室 博士後期課程
2018 (株)風景研究所 共同設立
2018-2021 東京藝術大学美術学部建築科 教育研究助手
2020 東京大学 工学博士学位取得
2020-2021 京都芸術大学 非常勤講師
2021 東洋大学 非常勤講師
湘南工科大学 非常勤講師
2023- 湘南工科大学 特任准教授







建築における床の意味と意匠

『都市の連続体としての床』

建物のなかでも、グランドレベルとつながっている「床」は強い。大地のエネルギーや、都市の活動の気配を、建築の強さにそのまま変換できるような気がしている。床の担うスケールは建築のそれよりも少し大きく、床は建築の枠組みからはみ出しているように思える。

分断・再接続する床
大地との関係で建築の床を考えるとき、思い出される魅力的な場所はいくつかある。グランドレベルから連続して設計された床や階段、建築の内部と外部との関係を取り持つ中間領域としての床。そのほかに、床が建築のもつスケールを打ち破り、ダイナミックにふるまっている事例として印象深いものがふたつある。

一つはメディチ家フィエゾレのヴィラである。段々状のテラスは、都市への眺望を中心に組み立てられているが、それぞれのテラスを移動するには、パーゴラや建物を介さなければならず、それぞれのテラスは分断されている。庭園―建築のシークエンスの中で、軸線とその先の眺望が繰り返し印象付けられるのだが、ときを過ごすうちに、赤い屋根の連なる眼下の街並みが、一段目の「床」であり、遠くピサの街並みを見据える2階の書斎のレベルが最上段の「床」だということがわかる。三段のテラスの印象的な分断は、都市やランドスケープ、領域というもっと大きなスケールの中に、段状に連なる形式の建築を、定位させるためにある。

 ■建築家コラム 第40回ゲスト 「大島 碧」 拡大写真 

 もう一つはパンテオンである。パンテオンはヴィラの構成とは対照的に閉じられたつくりで、天窓だけが周囲の様子の手がかりだ。刻一刻と変わる陰影が印象的だが、私が特に好きなのは雨の日だ。天窓から降り落ちる雨によって床に水溜りができると、床は建築の部分ではなく、大地と一体化したものに感じられる。
周囲を取り巻く街の日常からは切り離されているからこそ、空と大地の大きな関係性の中に建築が位置づけられているのだ。

 これらに共通するのは、環境からの「分断と再接続」という操作である。建築を取り巻くざわざわしたものたちをいったん切り離して、大きなものとつなぎなおすという行為が、より大きな空間をとらえて建築を考えるうえでの、一つのヒントになるような気がしている。



路上のような床
 「多重の家」では、北鎌倉のまちのもつ立体的な露地性を引き込み、道のような行き止まりのない平面計画とスキップフロアによって空間をゆるやかに分節しながら、建築の内外でまちのもつ隙間や道に接続させた。

 ■建築家コラム 第40回ゲスト 「大島 碧」 拡大写真 

「多重の家」スキップフロアによる構成(Photo ©Shigeo Ogawa)
先述した分断と再接続の考え方というのは、二階の庇にあらわれている。分棟を行き来するための庇はその上を歩くことができ、その道は都市のすきまや道と関係をもっている。庇の上に立ってみると、そこは家の中ではなく、都市の時間がもっと勢いよく流れ込んでいるような、まちの路上に立っている感覚になる。グランドレベルとの関係が、階層によって切断されるからこそ、線路の向かいの道と高さが一致したり、お隣の庭の小道と呼応したり、長い私道を受け取ったりという、小さな居場所や体験を、より大きな環境の中に位置づけることができると考えた。

 ■建築家コラム 第40回ゲスト 「大島 碧」 拡大写真 

「多重の家」K邸より中庭を介しM邸庇を見る(Photo ©Shigeo Ogawa)
 ■建築家コラム 第40回ゲスト 「大島 碧」 拡大写真 

「多重の家」まちの路上のような庇(Photo ©Shigeo Ogawa)
大島さん、ありがとうございました。

「多重の家」は庇をフラットにして分棟とつなげたことで、庇が空中の街路のようになって周囲につながっていく感じが写真で伝わってきました。

これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。
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