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皆さんこんにちは。
令和6年最初の建築家コラムをお届けいたします。 まずは1月1日に発生しました「能登半島地震」において被災された多くの皆さま方に対しお見舞いを申し上げます。 2月に入り厳しい寒さが続く今日この頃ですが、お身体には十分お気をつけください。 さて、建築家コラム39回目のゲストは「栃内 秋彦(とちない あきひこ)」さんです。 栃内さんは神奈川県で生まれ、芝浦工業大学大学院修士課程を修了後、難波和彦+界工作舎での勤務を経て、2017年に佐藤季代さんと一級建築士事務所 TAKiBIを設立されました。 現在は東京と湘南のオフィスを活動されている建築家です。 今回、栃内さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。 それでは栃内さんのコラムをお楽しみください。 ![]() 1980年 神奈川県生まれ 2006年 芝浦工業大学大学院理工学研究建設工学専攻修士課程修了 2006〜2017年 難波和彦+界工作舎 2017年〜 一級建築士事務所 TAKiBI設立 2022年〜 東京都市大学非常勤講師 主な受賞 2023年 第65回神奈川建築コンクール アピール賞(環境)/日本建築学会関東支部神奈川支所賞 2018年 住まいの環境デザイン・アワード2019優秀賞 2018年 第4回日本エコハウス大賞奨励賞 床の熱性能と空間の構成
19世紀ドイツの建築家ゴットフリート・ゼムパーは、建築の原型は「炉」を中心とし、それを守るためのシェルターを構成する「屋根」「囲い」「基壇(床)」の4つの基本要素から成ると主張した。この4要素の中で「床」は最も直接的に身体が触れる頻度の高い部位と言える。そのため触覚的な観点からの言及もすべく、本コラムでは床から身体に伝達される熱と空間の関係性に着目して「日光の家」という自作を振り返ってみたい。 写真:ナカサアンドパートナーズ
日本の代表的な床仕上げであるフローリングの特徴として「木の温もり」というイメージを抱く方が多いのではないだろうか。そこでまず熱伝導率について調べてみると無垢材の場合0.12W/m・K程となっている。対して例えばタイルの場合は1.3W/m・K程で、約10倍の差がある。ちなみに一般的な断熱材であるグラスウール10Kの熱伝導率は約0.05W/m・K程なので、このことからフローリングには断熱材的な特性もあることがわかる。次に体積あたりの熱容量(容積比熱)を比較してみると、フローリングは1,000kJ/㎥・K前後、タイルは2,000〜2,500 kJ/㎥・K程となり、2倍以上の差がある。冬季の浴室床のタイルの感触を思い起こすとわかりやすいように、フローリングの方が圧倒的に床まわりの冷気を身体に伝えづらく、蓄冷もしづらいということである。このように木の手触りや柔らかさ、匂い、見た目等の要素に加え、熱的な物性も「木の温もり」というイメージに関係しているだろう。ただしタイルと比較して冷たさを伝えづらく蓄えにくいということは、暖かさについても同様であることを頭に入れておきたい。
「日光の家」では、このようなフローリングの特性を活かしながら熱的な性能を補強するために、〈水〉の高い熱伝導率、熱容量(約0.6W/m・K、4000 kJ/㎥・K)と、対流する物性を利用する床冷暖房システムを活用した。具体的には居室床下の根太間に厚さ90mm厚の水袋を蓄熱材として敷き詰め、床下に設置した壁掛けエアコンの冷暖房で床面と室温両方をコントロールするという方式である。このシステムを床の空間構成に絡めて工夫した点は、1階の家族室(LDK)から2階の子供部屋へ登る階段の途中に、1FL+50cm程の「小上がり」という4畳半の遊び場を設け、その下部をエアコンの格納スペースや本棚としたことである。 写真:ナカサアンドパートナーズ
写真:栃内秋彦(根太間の水袋敷設時の様子)
さらに吹抜けとなっている家族室(LDK)と連続して、南面に正対するような斜めの大開口と庇のあるテラスを設け、屋根を折り曲げることにより、夏季は太陽光の入射を防ぎ、冬季は床に蓄熱させるような設計を行った。このようにパッシブかつアクティブな環境制御の手法を組み合わせた結果、暮らしの中で常に直接身体に触れ、近接する面としての床の温度を調整することによって、大きな吹き抜けのある開放的な空間においても快適性が確保されている。
写真:ナカサアンドパートナーズ
ゼムパーが建築の中心と捉えた「炉」の温熱制御的な機能は、現代では様々な設備機器に姿を変えて、建築を構成する残りの3要素にも組み込まれるように進化した。今後はその中で「床」以外の「屋根」と「囲い」の熱容量を〈水の層〉によって調整し温熱環境をコントロールするようなシステムを、現在取り組んでいるプロジェクトにおいて実現したいと考えている。
写真:栃内秋彦(トレイルランナーの家展の模型写真)
栃内秋彦/TAKiBI
栃内さん、ありがとうございました。
現在取り組まれているプロジェクトの完成も楽しみで、これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。 |
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