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皆さんこんにちは。
令和5年も8月になりましたが、毎日うだるような暑さが続きますね。 皆さまにおかれましては休憩と水分を十分とって、くれぐれも熱中症にならないよう注意してお過ごしください。 さて、建築家コラム36回目のゲストは「矢野 寿洋(やの としひろ)」さんです。 矢野さんは愛媛県松山市で生まれ、東京大学で建築を学ばれた後、新居千秋都市建築設計に勤務されました。2013年に独立され、青山えり子さんと矢野青山建築設計事務所を設立。現在は愛媛と東京の2拠点で活動中です。 今回、矢野さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。 それでは矢野さんのコラムをお楽しみください。 ![]() 1981年愛媛県松山市生まれ。 2000年愛媛県愛光高等学校卒業。 04年東京大学工学部建築学科卒業。 06年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。 06〜13年株式会社新居千秋都市建築設計勤務。 13年矢野青山建築設計事務所設立。 14〜17年東京大学生産技術研究所特任研究員。 建築における床の意味と意匠
床のもつ様々な意味の中でも、数量的でありながら身体的であるという点で、段差は特に面白いと思う。 私達の事務所ではUnrealEngineというソフトを用いて歩行体験のできるVRアプリを作成し各プロジェクトを歩行して体験できるようにしている。コントローラーではなく、自分の足で歩くことは、デジタルデバイスの苦手な高齢者等にも非常に好評である。足で歩いて体験することは、単にゴーグルを被って体験するのとは明らかに異なる脳の部位で空間を認識しており、歩行を伴わない空間体験と全く記憶への残り方が異なり面白い。ただし、現状床の段差についてはVRで歩行体験の再現のしようがない。コントローラーによって移動することはできるが、それは実際に上り下りするのとは全く別の体験である。 床の段差で個人的に印象的な場所が2つある。1つは、松村正恒の設計した八幡浜市の日土小学校の階段で、緩やかな階段がこんなにも心が弾むのかと驚いた。もう一つは金刀比羅宮の785段の階段である。階段をひたすら上り下りする中で、少しずつ階段の踏面や蹴上げが異なることで、速度、目に入る視界、疲労度が異なることに気づかされた。 複合施設「だんだんPARK」のホールで、段差への意識を反映して設計した。このホールは1階と2階をつなぐ大階段が動線にも観覧席にもなるというものである。スタディの中で複雑な形状もシンプルな大階段も検討したが、どちらもこの施設のおおらかで遊び心のある特徴にあわないと感じた。最終的には、当初折れ曲がっていた階段を2つの段差の異なるまっすぐな階段に分けることで、安全性を確保しながら、どちらも上り下りしてみたくなるようにした。その2つの階段を手掛かりに、素材や升席、可動テーブルや壁面棚の工夫を行い、日常の居場所と非日常の観覧席の両立を目指した。一時的な場面で映えることではなく、少しでも多くの人が体験してみたくなる場をつくることを目指した。 写真:西川公朗
写真:西川公朗
このホールでは、書道パフォーマンス・演奏会・上映会・犬猫譲渡会・マグロの解体ショー・生け花の展示パフォーマンス・プロレスなど、公共では難しい用途も含め幅広く使われ始めている。前方の舞台だけでなく、段々状の客席が活用される利用も多く、試みは一定の成果を挙げていると感じる。 AIが、床の段差のような空間の身体的な側面をどう扱えるようになるのか興味がある。AIが学習できるようにするためにどういった記述が必要なのだろうか。そういったことも考えながら、今後のプロジェクトでも床の段差に意識的に取り組みたいと思う。 矢野さん、ありがとうございました。
「だんだんPARK」ではまっすぐで段差が異なる2種類の階段を設けているところが面白いと感じました。上り下りする際にどちらの階段を選択するのか、観覧席として利用する場合はどこに座るのか。選択するために、その人の意志が働くと思いますが、無意識で感覚的に決定する面も大きいと思います。そのような意思決定プロセスをAIが学習し、建築に対する答えを出せるようになる時がくると、設計プロセスも大きく変わる可能性がありますね。その時、矢野青山設計事務所がどのような階段を設計するのか興味があります。 これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。 |
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