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皆さんこんにちは。
令和4年も8月になり暑い日が続きますが、局所的な豪雨が発生したり大気の状態も不安定です。 皆さまにおかれましては、熱中症や自然災害には十分気を付けてお過ごしください。 さて、この建築家コラムもお蔭様で30回目を迎えることができました。 記念すべき30回目のゲストは「 田中 裕一 (たなか ゆういち)」さんです。 田中さんはNAP建築設計事務所で勤務された後、2015年に中本剛志さんとSTUDIO YYを設立、数々のアワードを受賞し、いくつものプロポーザルで最優秀賞に選定されるなど、現在注目されている建築家です。 今回、田中さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。 それでは田中さんのコラムをお楽しみください。 ![]() 田中 裕一 建築家 STUDIO YY/共同代表 横浜国立大学大学院Y-GSA修了、NL Architects、NAP建築設計事務所を経て、STUDIO YYを設立。主な作品に、「丘の幼稚園」、「美郷町サテライトオフィス」、「真庭市そばの館」等。現在、「まきのさんの道の駅・佐川」、「息栖神社周辺拠点施設」等の公共物件の他、オフィスビルや寮、個人邸などのプロジェクトが進行中。 受賞歴にキッズデザイン賞、ウッドデザイン賞、千葉県建築文化賞、SDレビュー2016朝倉賞など。 床の形と素材がつくる人と建築の触れ合い方
かつてオランダのアムステルダムで勤務していたことがあります。アムステルダムでは、冬は寒く日も短いので、人々はあまり積極的に外出しませんが、たまたま夜の内に運河が凍るほど冷え、翌日は快晴となったある日、その日はここぞとばかりに人々が外に出てきて運河の上でスケートをし始めました。赤ちゃんをベビーカーにのせて、スケート靴をはいたママとパパが、ベビーカーごと氷の川の上を滑って、はしゃいでいた姿はなかなか衝撃的です。普段はただ渡るだけの橋も、スケート場の観客席に様変わり。運河でできた地形と、冬に数回だけ現れる気候が、ツルツル滑る氷の地面を作り出し、運河や橋の役割を一変させ、町全体がスケート場となって、ただただ気持ちいいとか楽しいとか、本能的に体中で楽しむ姿が強烈に記憶に残っています。 地面や床の作り方や状態が変わることで、日常と非日常が一変してしまう。そんな経験もあって、私たちの設計した建築には床の作り方や素材によって、その場所の特性や気候を引きだすことを試みたり、建築と人の関わり方をより深めることができるのではないかと考えたものがいくつかあります。
Takasaki Trekking Terrace
事務所を立ち上げた初期に群馬県高崎市に計画した、商業施設と集合住宅の複合施設です。建物の前面がスロープと階段を組み合わせた緩やかに登る床となっています。スロープの折り返し部分を広場としてストリートピアノがおいてあったり、傾斜部分を席としたアウトドアシネマであったり、お祭りの非日常の際には、床全体が目の前の道を通るお神輿を見られる客席となります。日照時間が特に長い高崎の気候を活かし、建物の中だけでなく、外の体験を生み出し、アムステルダムで見たスケートの風景のように、日常でも非日常の際にも、自由に居場所を見つけて楽しめる建築を提案しました。残念ながら設計の途中で計画中止となってしまいましたが、これをきっかけとして、丘の幼稚園の設計につながっています。 ![]() 丘の幼稚園
千葉県に設計したこども園です。巨大な団地に囲まれた敷地で、1方向のみが桜並木の緑地に面しています。その緑地に向けた片流れの屋根をそのまま地面まで下ろした、桜を眺められる丘のような場所を設計しました。 丘の形をした床は、あるところはロープのネットとし、あるところは人工芝をはったすべすべで滑る床、もう1カ所は、転んでも大丈夫な程度の木の床で、子どもたちがぐるぐる走り回れるようになっています。ちょうど3寸5分の屋根勾配が、子どもが少しがんばれば登れる角度になっています。その角度に合わせ、それぞれ素材や摩擦が異なることで、「よじ登る」、「寝っ転がる」、「滑り降りる」、「走り回る」、「座って眺める」と、同じ角度でも、床ごとに様々な建築と人の触れ合い方が生まれます。
床を遊びつくしながら、年長の子が小さな子の手を引いてあげたり、教えるでもなく芝生を滑る順番を作ったり、子ども達が遊びながら学ぶ場として活用されています。晴れた日に外遊びの時間になったとたんに、子ども達がキャーキャー言いながら、3箇所の床に集まって、体中で楽しんでいる姿を見て、アムステルダムで見たスケートの風景を思い出しました。
田中さん、ありがとうございました。
アムステルダムの運河のスケートのお話しは面白いですね。 川が凍ることで、人の行動も「川を渡る」から「氷を滑って楽しむ」に変わる、同じ場所でも床の状態で人の行動が変わるということがよく分かります。 丘の幼稚園も同じ勾配の床でありながら、滑ったり、ネットをよじ登ったり、並んで座ったりと、床の素材によって異なる体験が生まれ、園児の記憶に強く残る屋根になるのだろうと思いました。 今後の作品でどのような床の場ができるか非常に楽しみです。 これからもますますのご活躍をお祈りしております。どうもありがとうございました。 |
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