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皆さんこんにちは。
令和4年も4月になり桜が咲く季節になりましたが、花冷えの折、皆様元気でお過ごしでしょうか。 新年度もスタートし、新たな希望に満ちあふれている方も多いかと思います。 さて、今回で28回目となる建築家コラムのゲストは「 大村 真也 (おおむら しんや)」さんです。 大村さんは宮城県のご出身で、法政大学大学院建設工学科を修了後、2007年にCAt(C+A Tokyo)に加わり、2019年からCAtパートナーとして活動されている建築家です。 今回、大村さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。 それでは大村さんのコラムをお楽しみください。 ![]() 大村 真也 CAtパートナー/取締役 宮城県出身 2004年 法政大学工学部建築学科卒業 2006年 法政大学大学院建設工学科修士課程修了 2007年 CAt(C+A Tokyo)に加わる 2019年〜 シニアアソシエイト、ディレクターを経てCAtパートナー 主な作品に、山元町役場、うのすまいトモス、ROPPONGI TERRACE、共愛学園前橋国際大学5号館 KYOAI GLOCAL GATEWAY、小田原市消防庁舎 成田出張所 / 岡本出張所、土生公民館など (C) ToLoLo studio IOCコラム「建築における床の意味と意匠」 場としての床/場を生み出す床 パートナーシップとしての建築家 わたしたちの事務所は、1986年に小嶋一浩、伊藤恭行ら 7 人により共同設立されたパートナーシップによる事務所で、宇野享(1995年~/CAn)、赤松佳珠子(2002年~/CAt)、大村真也(2019年~/CAt)、良知康晴(2020年~/CAn)がパートナーに加わり、現在は、C+Aとして、東京(CAt)と名古屋(CAn)を拠点に活動しています。 建築家になるには、アトリエ事務所で修行して独立というイメージが強いと思いますが、私は、アトリエとしてのノウハウと実績を活かしながらも、多様な価値観の議論を生み出し新陳代謝させるため、パートナーとして加わる形で建築家となる道を選びました。 独立した建築家にとっては、処女作があり、師からの系譜を引き継ぎながら固有のスタイル確立しようとする原点、態度表明のようなものがあると思いますが、私にとっては特にそれはなく、スタッフ時代から現在までがグラデーションのなかにあります。過去の作品からすべてが連歌のように、韻を踏むような「連続」と、詠み継いでいく中で起こる思いも寄らない「変化」を楽しみながら建築をつくっています。私がスタッフとして関わった宇土小学校(2011年竣工)から最近の作品まで、ここ約10年でのCAtの建築と床について少し考えたいと思います。 ベクトル場としての床 C+Aは、建築そのものだけでなく、「アクティビティ」「黒と白」「FLUID DIRECTION」など、建築理論、設計手法のイメージもあると思います。以前の建築には、理論と空間の関係性を模索する傾向が強かったように思いますが、宇土小学校以降は、「白の濃淡」と表現したように建築全体のなかに濃淡で空間を特徴づけるような設計手法を探るようになったと思います。宇土小学校では、フラットなスラブの上に、コンクリートの「L壁」を離散的に配置し、力強い建築のエレメントだけで濃淡のある場をつくることを目指しました。その他の構成要素を極力抑え、これまでのシーラカンスの学校建築に見られた大階段やアッセンブリースペース、ロッジア空間などの要素はあるものの、それほど強い印象ではありません。「建築のエレメントで場をつくる」ときには、床は天気の気圧配置図のように顕れるベクトル場を転写する平面として、多様に変化していくアクティビティの舞台としてニュートラルな床であるともいえます。その後の流山市立おおたかの森小・中学校(2015年竣工)でも、その手法を最大化させ、不定形なスラブは水面のように際限のないよりニュートラルな床面です。 左・右: (C) 堀田貞雄
【写真:宇土小学校】 左・右: (C) 吉田誠
【写真:おおたかの森小・中学校】 場を生み出すもの
学校建築の教室のような単位で設計できるプロジェクトではなかったとしても、グラジュアリーな場の分布を如何にしてつくっていくかの試みは続いていき、山元町役場(2019年竣工)では、スモールコアというエレメントで場をつくることを試みました。通常、コアとは構造・設備・水回りなどを建築のある箇所に集約させ、空間的・機能的に効率化させたことを言いますが、スモールコアとはそれらを広い平面のなかに微分して離散的に配置し、様々な仕上げを組み合わせることで、収納や性能、使い勝手、空間の印象を与えることなどに応答した小さなコアのことを指します。2階建ての上下階をつなぐために床や屋根にボイドを空け、光を導き、手すりを設け、ワンルーム化された一体空間のなかに、スモールコアを離散的に配置していくという一見単純な操作ですが、宇土小学校のコンクリートの「L壁」の純粋さや構成の単純さに比べると、鉄骨造では構成される部材が多く、空間に顕れる微分されたエレメントが与える複合的な影響を意識していくようになりました。私たちはそれを、「ミドルスケール」と呼んでいるのですが、そもそも建築家が扱うエレメントのスケールにフォーカスしてみようと考えたわけです。建築家はもちろん全体のマエストロとして統合的な役割を担うわけですが、例えば構造、屋根など大きなストラクチャーは、構造家、インテリアやファニチャーなど小さなスケールはインテリアデザイナーや家具デザイナーなどと協働するパートナーの役割は、意外とスケールによって分かれ、ミドルスケールのレンジは建築の骨格として建築家が扱うものであり、「L壁」のような力強い建築エレメントとは違った空間に場を生み出すエレメントとして可能性があるのではないかと再認識したのです。 (C) 阿野太一
【写真:山元町役場】 ミドルスケールとしての床
共愛学園前橋国際大学5号館 KYOAI GLOCAL GATEWAY(2021年竣工)では、山元町役場と同様に2層の空間にボイドを設け、一体的空間にしているわけですが、ボイドの周辺に学生たちの自由な活動の場を生み出すために、様々な手すりやカウンターを設け、2つの床をつなぐ階段は段状の床と一体的につくっています。それは外部デッキテラスにも連続し、雁行したデッキが、建物周辺の外部空間にもアクティビティを生み出し、内外の境界なく、キャンパス全体にも場を生み出そうと考えました。 “スラブ”は構造の一部のビックスケールとして、“床”は手すりなどとともにミドルスケールとして捉え、宇土小の「L壁」、山元町の「スモールコア」などの必ずしも力強いエレメントエレメントがなかったとしても、空間の中にグラジュアリーな場を生み出せるのではないかと考えるようになってきたのです。 左:(C) 阿野太一+楠瀬友将 右:(C) CAt
(C) CAt
【写真:共愛学園前橋国際大学5号館 KYOAI GLOCAL GATEWAY】 土生公民館(2021年竣工)では、建物外周にいわゆる縁側が巡っています。縁側は建物の縁に、内部の床が張り出した床のことです。公民館なので、エントランスはもちろん外部からフラットにアクセスしますが、その床は高低差のある敷地のなかでは、いつの間にか縁側となり、それがベンチのように連続し、和室の床は内部に対しても縁側のような張り出した床となります。共愛学園とは異なったの様相の建築ですが、ミドルスケールとしての床の操作により、建築や空間の縁に人々が自然と集うような場を生み出し、内外や室の境界を溶かしていくような手法は同じです。
左・右: (C) 足袋井竜也
【写真:土生公民館】 ROPPONGI TERRACE(2020年竣工)は、六本木の中心地にありながら、小さな住宅や集合住宅が肩を寄せ合うように立ち並ぶ一角の細い路地の奥に建ち、東側に公園に面しています。公園側は、開けた視界の向こうに大きなビルが立ち並ぶ大きな風景、反対側は敷地ギリギリまで小さな建物が隣接する、東京の下町のような小さな風景。都心に空いたvoid(公園)の開放感を最大限に取り入れ、この2つの風景を接続し、視線、風や光が通り抜ける、全体がテラスのような建築を目指しました。公園と敷地の高低差により、地上レベルは、ほとんど日照や風通しは期待できず、密集するこの環境に埋没してしまうため、大きな風景へと向かうようにスラブを傾け、逆梁を利用したスキップ状の床は、ワンルームの中に場をつくるだけなく、2つの風景を接続させようと考えました。この床の操作は、住宅側の高さを抑えて圧迫感を軽減し、開放的な公園側への広がりをもたせます。
左・右: (C) 中村絵
(C) 中村絵
【写真:ROPPONGI TERRACE】 連歌のように詠い継いでいく
建築のエレメントによって場をつくるという試みは、エレメントの強さやスケールを分解しながら、ニュートラルな床の上に場を生み出すだけでなく、ミドルスケールと定義した、床とも家具とも階段ともいえる曖昧な形式を通して、より人間の身体に近いスケールのエレメントが、ささやかな日常に佇まいや気配を与え、空間や建築の外側に対しても場を生み出し、境界を溶かし、都市に接続する広がりを持った思考へと進化してきたように思います。新陳代謝しながら連歌のように詠い継いでいくことで、建築の新しい地平線を切り開いていきたいと思っています。 大村さん、ありがとうございました。
今回のコラムでは人が多く写っている建築写真が多いのですが、大村さんのお話しとあわせて写真を見ていくと、建築をミドルスケールで捉えることによって、人が自然と集う空間が生まれたり、建築が周辺の環境に溶け込んでいく様子がよく分かりました。 今後の建築もどのように変化していくか非常に楽しみなところです。 これからもますますのご活躍をお祈りしております。 どうもありがとうございました。 |
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