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建築家コラム 第26回ゲスト 「宮城島 崇人」 2021年12月1日 一覧へ戻る
 皆さんこんにちは。令和3年もあっという間に12月になりました。
 11月に入り、国内のコロナ感染者数もかなり減少しましたが、「第6波」到来の可能性も囁かれていますので、引き続き感染対策を意識してお過ごし下さい。

 さて、今回で26回目となる建築家コラムのゲストは「 宮城島 崇人 (みやぎしま たかひと)」さんです。
宮城島さんは北海道釧路市で生まれ、東京工業大学大学院を修了されてから、宮城島崇人建築設計事務所を主宰し、札幌を拠点にしつつ、全国で活動されている若手の建築家です。
 
 今回、宮城島さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。
それでは宮城島さんのコラムをお楽しみください。
 ■建築家コラム 第26回ゲスト 「宮城島 崇人」 拡大写真 

宮城島 崇人
建築家。株式会社宮城島崇人建築設計事務所代表取締役。1986年北海道釧路市生まれ。2011年東京工業大学大学院修了後、マドリード工科大学(ETSAM)奨学生。同年、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に進学。観光をきっかけに再認識される地域景観のリサーチ、デザインに取り組む。2013年より主宰する建築設計事務所にて建築設計を中心に、環境と人間の新しい関係をつくりだすことを試みている。
主な作品に、丘のまち交流館”bi.yell”(2015)、サラブレッド牧場の建築群(2016~)、山裾の家(2018)、O project(2020)など。











写真:Shin Suzuki
「建築における床の意味と意匠」 宮城島崇人

建築/床がなければ人はそこに立つことができない。そんな当然のことを鮮明に感じたのは、スイスの山岳集落にある、Peter Zumthor設計の聖ベネディクト教会であった。なだらかな山をずっと登って、深い針葉樹林へ入る手前にそれはある。山道を少し逸れるようにして、教会へ至る階段を登り扉を開くと、白銀の光に満ちた美しいこじんまりとした礼拝の空間が現れた。木の葉型をした平面は文字通り浮いていた。これまでたどってきた山道と連続しているようで、していない、この建築が存在しなければ立てなかった新しい地面に自分は立っている。山肌から離れて浮かんでいる自分を想像した。
どうやらその床は、中心に向かって少しだけ下がっているようだ。顔を床にこすりつけるように何度も確認したが間違いない。気づかないくらい緩やかな、すり鉢のように。ただ、それを裏付ける図面には未だ出会えていない。
 ■建築家コラム 第26回ゲスト 「宮城島 崇人」 拡大写真 

聖ベネディクト教会 写真:Takahito Miyagishima
 ■建築家コラム 第26回ゲスト 「宮城島 崇人」 拡大写真 

聖ベネディクト教会 写真:Takahito Miyagishima
建築が生まれると、今またどり着けなかったところに行けるようになったり、その逆もしかり、視界が遮られたり、影が生まれたりする。建築の存在が生み出す原初的な現象だ。床がなければぼくたちはそこに立つことができず、そこから見えるものごと、感じられるものごと、全ては存在しない、ということもそのひとつである。新しく床をつくるということは、人間と環境の関係をかたちづくることである。

Oprojectは、公園の一角に建つ木造枠組工法の住宅を改修増築したプロジェクトだ。既存住宅とも公園ともまったく性質の異なる増築棟を挿入することで、住宅と公園の異なる2つの環境の特性を引き出そうとした。増築棟は公園から1.2mの高さに浮かべた床スラブと、既存建物に覆いかぶさるように持ち上げられた屋根スラブを鉄筋コンクリート造の二本の柱で支えている。この浮かぶ床は、公園にいる人と住宅にいる人の視線を調整しつつ、公園を広く見渡す視点を提供する。住宅からみても公園からみてもステージのような場所だ。この開放的なステージに隣接することで、既存住宅のリビングは、公園の緑と空との一体感が感じられる、明るく落ち着いた空間に生まれ変わった。しっかりと外断熱が施された、熱容量の大きなコンクリートの床には床暖房が埋設されており、冬は暖かく、夏は涼しい。屋上庭園となる屋根は既存のバルコニーからちょうどテーブルくらいの高さにある。屋根の上は、公園の林の中へ漕ぎ出す船の甲板のようだ。
 ■建築家コラム 第26回ゲスト 「宮城島 崇人」 拡大写真 

Oproject 写真:Daici Ano
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Oproject 写真:Daici Ano
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Oproject 写真:Daici Ano
 ■建築家コラム 第26回ゲスト 「宮城島 崇人」 拡大写真 

Oproject 写真:Daici Ano
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一枚の床を設定することで、ぼくたちは大地と人間と宇宙の関係を再構築することだってできてしまう。そんな建築を夢見ている。


宮城島さん、ありがとうございました。

建築のなかで床がしつらえられることで、そこに立つ人に新たな視点を与え、建築の内部と外部をつなげたり切り離したりしていることに気付かされました。
また床を起点に自然や宇宙とのつながりにまで想いを巡らせることができるような建築の可能性を感じさせられるお話しでした。

これからもますますのご活躍をお祈りしております。
どうもありがとうございました。
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