IOC STAFF ブログ
建築家コラム 第25回ゲスト 「米澤 隆」 2021年10月02日 一覧へ戻る
 皆さんこんにちは。令和3年も10月になり、緊急事態宣言もようやく解除されました。
 今まで制限されていた様々な行動が緩和されてくるかと思われますが、感染者数を再拡大させないよう、引き続き気を緩めずに行動することが重要かと思います。

 さて、今回で25回目となる建築家コラムのゲストは「 米澤 隆 (よねざわ たかし)」さんです。
米澤さんは京都府で生まれ、名古屋工業大学大学院を修了されてから、名古屋市で米澤隆建築設計事務所を主宰し、ご活躍されている建築家です。

 9月に「名古屋駅西側エリア(リニア開業時の姿)デザイン検討業務委託」公募型プロポーザルで、米澤隆建築設計事務所チームの提案が設計者として選定されたり、SDレビュー2021展では中川運河キャナルアートとともに進めている中川運河再生計画案「みんなの運河」を発表されたりと、公共空間の分野でも精力的にご活動されています。
 
 今回、米澤さんからどんな「床」にまつわるお話が聞けるのかとても楽しみです。
それでは米澤さんのコラムをお楽しみください。
 ■建築家コラム 第25回ゲスト 「米澤 隆」 拡大写真 

米澤隆
1982年 京都府生まれ
2007年 名古屋工業大学卒業
2014年 名古屋工業大学大学院博士課程修了
現在 米澤隆建築設計事務所主宰、大同大学准教授

主な受賞
2008年 SDレビュー入選
2011年 AR+d Awards for Emerging Architecture2011 Highly commended
2012年 JCDデザインアワード金賞+五十嵐太郎賞
2013年 THE INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARD
2014年 SDレビュー入選
2015年 日本建築学会作品選集新人賞
2015年 SDレビュー入選
2020年 キッズデザイン賞
2020年 グッドデザイン賞
2021年 SDレビュー入選
2021年 名古屋駅西側駅前広場設計プロポーザル 最優秀提案
「建築における床の意味と意匠」

私事で恐縮だが、昨年、第一子となる息子が生まれた。子育てを通して改めて考えるようになったのは、床の意味だ。この一年で、寝返りができるようになり、座れるようになり、はいはいができるようになり、つかまり立ちができるようになり、歩けるようになった。身体性が変わるごとに床の硬さや質感に気を配った。床とはそれほどに身体に密接なものであり、常に身体に触れ続けているという点で他のエレメントとは一線を画する。立つ、歩く、走る、座る、寝るなど様々なふるまいにおいて床は直接的に身体に影響を及ぼすことになる。

また、床は、自然光や人工照明も含めて光を受けやすく質感が際立つ。液体のこぼれや汚れ、ほこりの受け皿となりメンテナンス性も問われる。そういったことを鑑みると、床を見れば設計者や住人の建築に対する向き合い方がわかるとすら言えるのではないだろうか。立ったり、座ったり、あるいはテーブルにもなったりするような機能重視型。肌合いや暖かさなどの居心地を大切にする快適性重視型。色味や艶などの見栄えにこだわる美観重視型。
掃除がしやすかったり、汚れが目立ちにくかったりなど清掃の手間を省くメンテナンス重視型。一つの価値観に特化するのではなく、様々な観点に配慮したバランス型。などが挙げられるだろうか。

さらに視点を広げてみると、床は、内部空間と外部空間やリビングと和室など領域を表象したり、床材の目地や継目によってスケールや方向性が現れたりする性質がある。それゆえに濡れ縁のように内部空間のような素材を外部空間まで延長したり、土間のように外部空間の素材を内部空間まで引き込むことにより領域を曖昧にさせたり、中間領域を発生させることができたりする。あえて外部で使われる材を内部で用いたり、床材を天井に用いるなど、ズラすことで空間の意味を変容させるなどの設計手法にも活用されている。

私の実家は、京都市南区に1960年代に建てられた町家であるが、家の中を土間が東西に通り抜けていたし(いわゆる通り土間)、廊下と縁側がシームレスに連続していた。家の中に外が入り込んでいたり、家の中を歩いていると自然と外に繋がっていたりした。つまり、床が家の空間構成を牽引し体験の主要素となっていたように、今から考えると解釈できる。

そんな住宅に生まれ育ったからだろうか、私が設計する建築においても、二階の床と階段と一階の大きなテーブルを同じ材で連続させ、あたかも二階の床が抜け落ち一階まで連続しているかのような表現を用い上下階の関係性をデザインしたり(公文式という建築)、床材を切り替えることで隣接する空間の切り替わりを明示したり(オハドコの家)、外部の路地を建築内部に引き込むような空間構成を設計したりしてきた(小道が通り抜ける町屋)。

こうして考えてみると床というのは、身体に直接影響を及ぼす空間体験や空間構成を司る、実に面白いエレメントであることがわかる。

 ■建築家コラム 第25回ゲスト 「米澤 隆」 拡大写真 

公文式という建築  写真:繁田諭
 ■建築家コラム 第25回ゲスト 「米澤 隆」 拡大写真 

オハドコの家 写真:鈴木淳平
 ■建築家コラム 第25回ゲスト 「米澤 隆」 拡大写真 

小道が通り抜ける町家
米澤さん、ありがとうございました。

床が、生活者の暮らし方や生活と密接な関係を持っていたり、建築を構成する要素として空間にいろいろな意味を与えてくれるということが、よく分かりました。
米澤さんの建築作品を拝見すると、京都の町家で生まれ育った経験が、空間にあらわれているような気がします。


これからもますますのご活躍をお祈りしております。
どうもありがとうございました。
戻る



ネット ショップネット ショップ