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建築家コラム 第8回ゲスト 「吉田 州一郎」 2018年11月15日 一覧へ戻る
朝晩は寒さが厳しく感じられる季節となりました。
本格的な冬の到来を予感される今日この頃ですが皆さまお元気にお過ごしのことと拝察いたします。

さて、建築家コラム第8回目のゲストはアキチ アーキテクツの「吉田 州一郎(よしだ くにいちろう)」様です。
最近は家族の一員としてペットを飼われる方が私の周りにもたくさんいらっしゃいます。
今回はペットと暮らす家の床がテーマの大変興味が沸くコラムです。

それでは吉田さんの建築家コラムをお楽しみください。








 ■建築家コラム 第8回ゲスト 「吉田 州一郎」 拡大写真 

吉田州一郎(よしだ くにいちろう)
アキチ アーキテクツ Akiti architects

1974年 長崎県生まれ。
慶應義塾大学経済学部卒業、早稲田大学大学院修士課程(古谷誠章研究室)修了。
設計事務所、鉄鋼メーカー勤務を経て、
2015年、吉田あいと共に、アキチ アーキテクツを設立。

主な作品に『YY house・office・kitchen』、『湘南 ドッグ アパートメント』など

https://www.akiti.jp

















茅ヶ崎の床



神奈川県茅ヶ崎市にて、愛犬との共棲をテーマにした6世帯の賃貸集合住宅が竣工した。
人間の目線に加えて、体高の低い犬の目線からの断面計画が必要であった為、床の存在感が大きくなり、寸法、素材、衛生的に安全、快適であることは、人間以上のスペックが求められた。
以下、室内の床と屋外の床についてこの計画において留意した点を整理してみる。

写真:前面道路側外観
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室内の床

室内の床の大半を、うずくりのフローリング張りとし、植物油の浸透性保護塗料で仕上げている。
犬の肉球は滑りやすく、ツルツルの床では足を痛めてしまう事も多い。滑りにくくも足触りの良い床が必要である。
また塗料は、表面に塗膜を張らないけれども、不意な排泄が染み込まないで拭き取れるといった、相反する要求を両立させる必要があった。
うずくりは通常より深めの特別仕様である。木目の陰影が味わい深い仕上がりとなった。木目の並び方で、床全体にムラが広がり、場所場所で触感が違うのが良い。
平滑でない床は様々な居場所を生み出すはずだ。

写真:場所場所で触感が異なるムラのある床
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床に目線を合わせて建築を考えていると、今まで以上に、足元に色々な空間があることに気付く。
窓との取り合いひとつとっても、掃き出し窓、小上がり、腰窓の違いで、様々なテリトリーができる。例えば、人にとっては開放的な開口部であっても、犬にとっては囲まれていて落ち着いた場所を両立できる。
人と犬のテリトリーが重複する事で様々な中間領域が生まれてくる。

写真:上)人と犬にとって違う視界が様々な中間領域を生む 下)様々な居場所を生み出す床のレイアウト
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屋外の床

集合住宅としての共用部は室内化せず外部空間とし、屋根だけを架けた。
前面道路から中庭をつなぐ3層吹き抜けの開放的な大空間が建物内部に貫入する構成としている。
これは住民同士の井戸端のような屋外リビングであり、ドッグヤードとしての機能を持つ。井戸ではないが犬の足洗いが場の中心に配置される。


写真:左)屋外リビングには犬用の足洗いや汚物流しが設置されている 右)中庭側より屋外リビングを望む
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各住戸は屋外リビングを経由して接続されるので、動線的に奥まった位置に玄関やプライベートテラスを配置できた。これは段階的に犬の警戒心を緩め、無駄吠え対策としても有効である。
人にとっても犬にとっても安全、安心な外部空間は、各住戸単体では得られないゆとりと付加価値をもたらすだろう。

屋根は部分的に開放され、晴れの日と雨の日とで床の状態が変わる。
茅ヶ崎の折々の自然に呼応する豊かな半外部空間を通して建築を適度に社会へと開く。
このセミプライベートな外部の床は住民同士、時には周囲も巻き込んで、街のコミュニティーへと繋がるステージとして機能する。
変化を許容できるおおらかな気積を構成する床は、大判の磁器質タイルによって堅固に仕上げられ、中庭の土や植栽が彩りを添える。

写真:屋外リビングを見下ろす
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適材適所に配置された床は生き生きとして、美しい。
犬を含めた家族の生活を軸として建築全体を捉え直すことで、意匠的な密度と強度をより高めることができると思う。
目線をひとつ加えることで、空間はより豊かになる。






吉田さん、住宅の空間を犬の目線で眺めているような気分で楽しく拝読させていただきました。
確かに犬や猫、あるいは鳥の目線で住宅を考える機会もないので今回は大変興味深いお話でした。

これからもいろいろな人や生き物?の視点に立った、住み心地の良い空間作りを期待しております。
どうもありがとうございました。
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